京都おはし工房

リズミカルに格好良く卵焼きを仕上げたい
「いい道具に出会えるか」が勘所。

こだわりの菜箸を求めて京都おはし工房へ

25年以上働き続けていると、もはや仕事は人生の一部。だからこそ仕事の息抜きは大切だ。私の息抜きは料理、男子厨房に入ることがまさに至福の時間。さりとて下手の横好き、技術が伴わない料理は好不調の波が激しい。そこで、技術を高めてくれるであろう調理道具を探し歩くこととなるのだ。今回訪れたのは妙心寺駅から徒歩3分、日本で唯一の「あつらえ(オーダーメイド)おはし専門店」京都おはし工房である。店主の北村さんは独立御箸師を名乗り、箸づくり一筋20年の職人だ。今回探訪したい調理道具とは「菜箸」。卵焼きはテンポ良くクルっと小粋に返すリズム感が大切。そこで活躍するのが菜箸というわけだ。卵焼きの調理工程で菜箸は「混ぜる、つまむ、かえす」と3役もこなさなければならない。三刀流の菜箸に、いささか働きすぎだとシンパシーを感じる。

ゴマ一粒がつまめる箸のポテンシャルに驚く

「箸は箸先で使いやすさが7割決まる。箸先を良く創ることが、お箸の良さを左右する」と北村さん。「まずは食事用の箸で使い心地を感じてください」と小皿に入ったゴマをつまむことに。できのるか?できるのか?不安で手先が震える。カメラが後ろで待ち構えている。そんな緊張感もよそに、ゴマが箸先にピタっと吸い付くようにつまめた。取材スタッフから「おぉお!」と驚きの声が出た。本当に余計な力がいらないのだ、指先が精巧なピンセットになったような感覚だった。箸先を良く創ることとは、こういうことなのかと感動したのだ。

箸先へのこだわりはいい素材・いい部位を選んでこそ

先端が細いお箸は、つまみやすく唇に触れる面積も少ないから口当たりが良くなる。ちょうど薄いワイングラスの方がワインそのものを美味しく味わえるのと同じだとお聴きした。
昔一度、ライターの師匠ともいえる方に高級なワインバーに連れてもらったことがある。グラスが薄いほど、唇に触れる部分が少なく繊細な味を舌でキャッチできると言われたことを思い出した。ワイングラスは成人していないと使う機会がないが、お箸は違う。老若男女問わず、日々使う暮らしの道具だ。毎日を美味しく感じられるなら、これほど値打ちのある商品は他にないだろう。北村さんの材料選定の目は非常に厳しい。これほど細い箸先を創るならば、簡単に折れてはならない。だからこそ、銘竹や銘木を選ぶ際にも、その硬さを徹底して吟味しているのだ。

期待が膨らむこだわりの菜箸

京都おはし工房のメイン商品は食事用の箸であるが、菜箸にも一定のニーズがある。プロも購入するまさに専門道具でもあるのだ。菜箸は食事用の箸よりも先端をほんの少し太く仕上げている。それは、ハードユースを想定して耐久性を高めているから。また一般的な菜箸が尺一寸(約33cm)を踏襲しているのに対して、こちらでは30cmと27cmと少し短い。「尺一寸だと反りやすく、また手の小さい女性には長すぎて扱いにくい」と北村さん。菜箸の一般的なサイズ感にも、目を光らせ疑問に思ったら試して改善する。それは単に職人魂だけでなく、生活者としての視点からも評価しているのだと感じた。

菜箸の素材は京都産の真竹、それには訳がある

耐久性と使い勝手の良さを追及した、京都おはし工房の菜箸。取り扱っている菜箸のなかでも「白竹菜箸」「二刀流菜箸」は京都産の真竹を使用。京都独特の盆地地形により、夏冬の温度差が激しくなり、竹がギュッと良く締まり粘りがあるとのこと。この真竹を炭火であぶって油抜きしたのが「白竹」。強度・耐久性がさらに増し、先がへたりにくくなっているのだ。道具を少々雑に扱いがちな私だが、丈夫さとは雑に扱うためではなく、永く使ってもらうためだと取材を通じて反省したのであった。

格好良く作ることは美味しく作ることでもある

これは格好良く、しかも美味しい卵焼きが創れそうだと、期待が膨らむ。そもそも格好良く料理ができるというのは、無駄のない動きができるということに通じていると思う。無駄のない動きというのは料理の基本ではないか、とよく思うのだ。白竹菜箸を手に取ってみると、「使ってもらってこそのお箸」という北村さんの熱い想いが伝わる。その想いのなかから道具としての使命のようなものも同時に感じる。最高の道具を側におくことは自分自身も高めてくれる、取材から帰ったらすぐ卵焼きをつくる、晩酌のお供だ。そんな高揚感に包まれて、明日も実のある文章を書いて、知らなかったことを伝える「はし」渡しをするのだ。嵐電に揺られて帰る私の足取りはひときわ軽い。帰りに京都駅のデパ地下で、ちょっといい日本酒を買って帰るとしよう。

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